国境大好き芸人

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キルギス族はなにを食べて暮らしているのか?「秘境のキルギス」シルクロードの遊牧民【読書録】

キルギスに行きたすぎて買ってみた本「秘境のキルギス



中央アジアの国、キルギスに行ってみたくてこの本を買ってみました。
第一刷は1982年なので35年前のキルギスについて書かれた本です。
ただ、実際にはカシュガル近くのコングル山近辺に住むキルギス族について書かれているため、場所で言えばキルギスではなく中華人民共和国新疆ウイグル自治区になります。

キルギス族はなにを食べて暮らしているのか?「秘境のキルギス」シルクロードの遊牧民【読書録】
写真:コングル山(写真の出典:Wikipedia

コングル山
Google Map
Wikipedia

キルギスは中国に隣接する中央アジアの国ですが、極端に情報が少ない国です。
どんな国なのか?どんな人々が暮らしているのか?何を食べているのか?ネットで調べてもまとまった情報が出てこない・・・

そんな理由で買ってみたのが「秘境のキルギスシルクロード遊牧民」です。

Amazonへのリンクはこちら:
秘境のキルギス―シルクロードの遊牧民 (1982年) [-]

著者は藤木高嶺さん。
プロフィールはこちら:

藤木高嶺
1926年兵庫県生まれ。関西学院大学文学部卒業。1951年朝日新聞入社。写真部員、社会部員を経て編集委員(山岳、探検などを担当)。海外探検と登山などの調査取材約20回。第12回菊池寛賞受賞。


さすがに35年前の遊牧民について書かれた本なので、現代のキルギスとはかなり異なるとは思うのですが、当時のキルギス族に密着取材して書かれた貴重な著作だと思います。

キルギス族はなにを食べて暮らしているのか?「秘境のキルギス」シルクロードの遊牧民【読書録】
写真:中古で買いました。

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写真:カシュガルから中巴公路(カラコラムハイウェイ)をパキスタン方面に行く途中にあるトゴラコノシュがこの作品の主な舞台。

トゴラコノシュ村は夏村(遊牧民が夏に暮らす村)で、中国の行政組織で言うとカルガズー自治区・アクト―県のブロンコ公社・ゲズ生産大隊に所属する約20の村のひとつで、8つの家族が暮らしています。

キルギス族はなにを食べて暮らしているのか?「秘境のキルギス」シルクロードの遊牧民【読書録】
画像:キルギス族が住むユルト。オクイ、パオとも言うらしい。(画像の出典:Wikipedia

ちなみに、トゴラコノシュ村やゲズ生産大隊についてGoogleで調べてもほとんど情報が出てこない!
35年前の取材だからということもあると思うが、キルギスをはじめシルクロードの国々についての(日本語の)情報が乏しいことを表しています。

アクト―県はWikipediaに載っている。

アクト―県
Wikipedia

今回はキルギス族の「食」を掘り下げます



遊牧民キルギス族について気になること・知りたいことはいっぱいあって、その中でも一番の興味は「食」でした。
というわけで、今回は本の中からキルギス族の食習慣について取り上げてみます。

遊牧民の主食は乳製品とミルク



遊牧をしているため、主食は乳製品とミルク。
キルギス族は数ある遊牧民のなかでも多くの家畜を飼っています。
具体的にはヒツジ、ヤギ、ヤク、ウシ、ラクダ、ウマ、ロバを家畜として飼育していて、イヌ、ネコ、ニワトリをペットとして飼っているそうです。

中央アジア遊牧民のほとんどが定着化したり、農業を取り入れるようになったため、乳製品の製法も近代化・機械化し大量生産できるようになりました。
しかし、トゴラコノシュ村で暮らすキルギス族は、昔ながらの製法で様々な乳製品をつくっています。

クルート(粗製チーズ)
・・・ヒツジの革袋にミルクを入れ1,2日置いておくと、水分が流れ出て袋の中におから状のものが残る。それを丸めて2週間ほど放っておくと固くなって保存食のクルートのできあがり。

クルートは現代のキルギスでもよく食べられる乳製品のようです。
国民的健康おつまみ「クルート」

アイラーン
・・・ヨーグルトに相当するもの。ミルクを煮ないで人肌に温め、ケットルゲー(発酵した古いヨーグルト)を加えて1,2日寝かせておくと、発酵した白いドロドロのものになる。

カイマーク
・・・ミルクを煮て、洗面器のような容器でねかせておくと、表面にクリーム状の膜ができる。バターのような生クリームのような乳製品。

実際にはこれらの乳製品をナンと一緒に食べます。
ナンは小麦粉からできているが、小麦を栽培しているわけではないため、物々交換で小麦を手に入れ、ナンを作ります。

ナンは小麦粉に水とヒツジやヤクのミルクを入れて混ぜ合わせ、手で練り上げたあと、家畜の脂肪の油をぬったフライパン状の鉄の鍋で焼いて作るそうです。

遊牧民の乳製品についてはこちらの論文でも述べられていました。
アジア大陸における乳文化圏と発酵乳加工発達史(PDF)

小麦をつかった料理



チャワータ
・・・小麦にミルクを入れて薄くのばし、油をしいた大鍋で焼いたもの。カイマークをぬって食べるとホットケーキのよう。

アーシ
・・・小麦にミルクを入れて薄くのばし、細くきざんでなべで湯がいたもの。著者によると、うどんに近いが味は薄くて水くさい感じがするそうだ。

ウマーチ
・・・小麦を熱湯のなかでかきまぜ、濃いポタージュスープ風に煮たもの。

キルギス族の遊牧民はこれらを美味しそうにたべるが、著者の口にはあわなかったとのこと。
ちなみに著者が持参したインスタントのカップうどんを彼らに食べさせると、味が濃すぎて口にあわなかったのだとか。
キルギス族は薄味が好みのようです。

肉料理はごちそう!



ヤクの肉は結婚式やお祭りでしか食べられないごちそう。
家畜の乳の出がわるくなる冬には肉を食べる機会が増えるそうです。

一番良く食べるのはヒツジだそうだが、作中ではヤクの肉をなべで煮たり、干し肉にしたりして何日も楽しむ様子が描かれていました。

また、作中ではヤクの肉で作った水餃子(チョイスベラ)についても描かれていて、著者絶賛のごちそうだったのだとか。

めったに食べない肉はラクダだが、非常に栄養があるのだそうだ。
作中にキルギス族の家族が崖から転落死したラクダを食べる描写がありましたが、そのマズさはキルギス族も認めるところ。
しかしラクダを食べると力がつくそうです。貴重な食材なようですね。

なかなかに興味深い遊牧民の食習慣



牧畜で自給自足の生活をするキルギス族の遊牧民の食習慣について書いてみましたが、興味深いですね。
主に乳製品しか食べないのと味が総じて薄いというのは、日本人の口にはあわなさそうですが・・・

しかし、なぜこのような食習慣を持っているのかは気になるところです。
そもそも遊牧民はいかにして遊牧民になったのか、遊牧をするに至った必然性を知りたくなりました。

次回はそのあたりを書いていけたらなと思います。

それにしても、上で述べた乳製品や料理の名前でGoogle検索してもほとんど情報が出てこないのは時代のせいなのか、そもそも(日本語の)キルギスの情報が不足しているのか・・・

情報がない国ほど、旅人としては気になりますね(笑)